自転車通行空間整備に新法を——自転車道整備法について考える

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@_takataka さんの「道路交通法改正試案」に対する パブリックコメントを拝見して、素晴らしい問題意識だと思う。ここでは「自転車道の整備等に関する法律(自転車道整備法)」について考えてみたい。

自転車道整備法は、 警察庁所管の法律ではない。だから警察庁交通局交通企画課法令係に改正を求めても「国土交通省にお伝えします」となれば恐らく上出来で、無視される可能性もある。とはいえ、この法律の第2条第3項第2号は少なくとも今となっては確かに邪魔でしかない。今回の「道路交通法改正試案」に対するパブリックコメントでどうこうできるわけではないだろうが、警察庁の担当者にこのような問題があるということを伝える意義はあるだろう。

自転車道整備法による自転車道の定義に、@_takataka さんがあらためて問題を感じたきっかけは、「東京都自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例案」 が自転車道の定義として持ち出してきたことだ。自転車や道路交通に関連する法令に関心のある人たちの間で「自転車道」という言葉は、通常道路構造令道路交通法に定められたものと理解されている。人によっては、大規模自転車道やそれに類似した道を思い出すかもしれない。けれども自転車歩行者道あるいは普通自転車通行可の歩道(以下、両者を「自歩道」と総称する)を含めることは一般的ではない。自歩道は道路交通法上、あくまでも「歩道」に過ぎないからだ。しかし自転車道整備法の定義では、第2条第3項第2号の「自転車及び歩行者の共通の通行の用に供することを目的とする道路又は道路の部分」が含まれる。結果、自歩道のようなものもこの法律の定義がある限り「自転車道」であると強弁できるのだ。

このような自転車道の定義・認識のズレが現れた例は過去にもある。『BiCYCLE CLUB』2007年6月号に載った「国政の場に「バイクラ」登場!/参議院でも取り上げられたシェア・ザ・ロード」 という疋田智さんの記事が触れている。この年の4月10日に開かれた参議院内閣委員会 で、木俣佳丈議員(以下、肩書はいずれも当時)が、2010年までに自転車道を3万キロ整備するという政府の目標について整備実績が「2356キロ」であることを指摘し、残りの期間で達成できるのかと質した。これに対して、笠井俊彦内閣参事官は「2005年にはここで言っている自転車道というのは2万1000キロメートルまでは整備ができている」と答え、「ちょっと定義の違いがあるんじゃないかと思いますが」と付け加えている。このあと国土交通省の原田保夫道路局次長が内閣参事官の答弁は自歩道を含むものだろうと補足している。環境官僚である参事官も「わかっていない」と疋田さんは言う。答弁に立った参事官本人がどうかはともかく、この数字をまとめた官僚はふだん顧みられることのない自転車道整備法の定義をよく分かった上で引っ張り出してきたに違いない、と私はつい邪推してしまう。

自転車道整備法が審議・制定されたのは1969年から翌1970年にかけてのことで、自転車道路の法制化・設置を求める運動が背景にあった。歩道に自転車を通すということは、この法律以前に実際にあったようだが、それは法律に基づくものではない。当時、道路交通法にも道路法・道路構造令にも自転車の通行路・歩道通行についての規定はまだなかった。 自転車道整備法は一連の法整備の地ならしをしたと言えるだろう。この法律が設置を求める自転車道は、4種類に分けられるが、自動車交通から自転車を物理的・構造的に分離しようというものであることが共通する。結果的に、自転車道整備法なかんずく第2条第3項第2号が、自転車を自動車交通(車道)から分離し、歩行者と混在させるというその後の自転車交通政策の基調を確立する先鞭をつけたという言い方もできる。思うに〝交通戦争〟ともいわれたほど交通事故が多かった時代にあって、これは自転車道路運動の妥協だった。その後40年以上にわたって手を付けることができず、自転車は「歩道を走る」ものという間違った認識が定着し、自転車が歩行者を巻き込む事故が社会問題になった。今になって考えると、これは大きな禍根を残すこととなってしまった。

自転車道整備法の成果として、「大規模自転車道」を代表とするサイクリング道路の整備を挙げることができる。スポーツ自転車に慣れる場として一定の役割を果たしている。一方で目玉となった「太平洋岸自転車道」は今に至るも完成せず、その他の路線も多くが未整備区間を残している。加えて自転車道という響きのイメージに反して、ほとんどが自転車専用道路ではない。恵まれたものであっても「自転車歩行者専用道路」であり歩行者と共用する形になっている。東京近郊でサイクリングロードとして認識され人気のある多摩川沿いと東京都内の荒川沿いの道は、いずれも大規模自転車道でないばかりか、位置付けが非常に曖昧だ。日本に自転車道が現れて間もない時期から、例えば『サイクルスポーツ』1972年8月号では、こういった既存の「自転車道路」は何のつながりもなく孤立し「子供の遊び場のよう」で、真の自転車道路とはいえず、一般道に併設され通常の交通手段として常用される自転車の通り道のネットワークが必要だ、と指摘されている。この指摘は現状にも当てはまる。

自転車道整備法は、自転車道整備事業に配慮しなければならない、自転車道整備事業を実施するよう努めなければならない、自転車専用道路等を設置するよう努めなければならない、と、国や地方公共団体の「責務」を謳っているが、これらは努力義務にとどまる。財政的な裏付けがあるわけでなく、自転車道を設置しなければいけない条件や構造的な規格を定めるわけでもない。いってみればこの法律は〝理念法〟に過ぎない。かといって、国と地方の財政事情は厳しく、大掛かりな自転車道の整備に今から財源を付けるという選択肢はないだろう。自転車道は費用が高くつき、歩道すら十分でなかった状況にあって、日本で整備されるのは歩行者と歩道を共用する自歩道ばかりとなってしまった。

施行から42年が経過し、現在も有効な法律であるにもかかわらず、本来の自転車道を造るという目的は実現されたとは言えない。そうしている間に、道路構造令・道路交通法にいう自転車道にかわって、自転車専用通行帯(自転車レーン)が注目されるようになった。けれども自転車レーンは現在の自転車道整備法のいう「自転車道」の範疇から外れる。その上この法律には何の裏付けもないから、自転車レーン整備の役には立ちそうにない。自転車レーンに限らず、自転車の本来の通行空間である車道のもろもろを、自転車に優しい形にしていかなければならないが、こういったことになると完全にこの法律とは無関係になる。あっても大して役に立っていないどころか、この法律の定義のせいで「自転車道」という言葉の意味が一つに定まらず混乱を招き、自歩道を「自転車道」であると強弁する根拠になってしまう。いっそのこと自転車道整備法を廃止し、総合的な自転車新法で自転車インフラストラクチャーに関する原則・方針を再構築すべき時期ではないだろうか。

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このページは、Meme-Memeが2013年2月26日 23:00に書いたブログ記事です。

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